自分軸を大切にする評価


箕面こどもの森学園の「評価」はコメントによるフィードバックです。中学生の実際のコメントをもとに、どのようなものかをご紹介します。

 

■評価手法開発までのプロセス

【発想の原点】〜子どもひとりひとりへ、エンパワメントになるフィードバックを〜

そもそも評価手法を開発しようとして始めた取組ではなく、学びを作っていくためには内省やリフレクションが大切だという発想から始まっている。つまり始まりは評価するための評価ではなく、大人の目線でフィードバックをすることで生徒をエンパワメントし、生徒自身のリフレクションによる変容を促すための取組である。テストや通知表などのような数値による評価を一切おこなっていないので、評価と呼べるものはこの取組ということになる。

【参考にしたもの】

フランス発祥のフレネ教育の取組を参考にしている。実際のフレネ学校では、毎週の学習の振り返りがおこなわれ、コメントだけでなく、さまざまな学習プログラムについて個別に簡単な自己評価する折れ線グラフのようなものがある。それを参考にすることも考えたが、言葉で伝える方が良いだろうと考え、コメントによるフィードバックをすることにした。

【開発から今までのプロセス】

<第1段階>全校生徒数10名程
毎週の振り返りとコメント
フランスでフレネ学校を見学し、毎週の学習計画の際の振り返りでコメントを書くことを始める。
子どもが自分で一週間を振り返る。スタッフがコメントを書き、それを自宅に持って帰り、保護者からもメッセージをもらう。
学期末のコメント
数字で評価するより文章で学んだことを伝えようと考えた。スタッフ会議の中で議題として取り上げ、一人ひとりのことを話し合ってその場で文章にしていた。かなりの時間をかけて話し合いながら書いた。手書きで書いたり、イラストを描いたり、それに色を塗ったりしていた。それを渡し、一人ひとり個別に話をする時間を取っていた。
なお、生徒自身も学期の振り返りを文章で書き、長期休み中に保護者が生徒に対してコメントを書いていった。
<第2段階>全校生徒数20〜30名程
毎週の振り返りとコメント
変化なし
学期末のコメント
生徒に関わったスタッフ一人ひとりが「学習面」「生活面」の2つの側面について、コメントをデータで入力し、文章を集め、校長が編集して1つの文章にしていた。それを渡し、一人ひとり個別に話をする時間を取っていった。

<第3段階>全校生徒数30名〜60名程
毎週の振り返りとコメント
ワークシートをアレンジし、「基礎学習」「テーマ学習」というような学習のプログラムごとに書く欄を設け、プログラムごとに振り返る形に変更した。全体的に振り返ると漠然として書きにくかった様子があったが、これによって書きやすくなった。
学期末のコメント
毎週のコメントと同様に学習のプログラムごとに書く欄を設け、全てを全員が書くのではなく、スタッフ会議で話し合い、特に書きやすい部分を検討して担当を分け、クラウド上のファイルに共同編集の形で書き込み、最後にクラス担任が全体をチェックし、最後に学園長と校長が確認して完成させるスタイルになった。それを渡し、一人ひとり個別に話をする時間を取っている。
この頃から、どちらかというとメッセージ性の高い文章から学習の記録的な意味合いの強い内容になっている。

 

■評価手法の目的と内容

【目的】リフレクション(内省)を小さく重ねて自分軸を育む

学びにおいて、リフレクション(内省)が重要であると考えている。むしろ内省がないと学びが生まれないという考えがあった。学びとは世界を広げること、自分自身が変容すること、そのために内省が必要である。
一つひとつの内省が小さな落ち葉のようなイメージ。「フルコースよりもおばんざい」という言葉を参考にした。フルコースは派手で見た目は良いが、その時だけのもの。それよりも日々のおばんざいのように小さな学びをいかに積み重ねるかがポイントであると考えた。
そのため、人と比べる必要はなく、生徒自身の実感としての成長があればよい。この点においては到達度が必要なわけではなく、数値で評価して他の人と比べる必要もない。教育とは一人ひとりが自分として生きようする営みをサポートするものと考えている。それを教師も自分自身としてその営みを続けつつ、伴走者としてともに作っていくような関わり合いをしている。

 

【内容】

<主な手法>
・毎週、毎学期の生徒自身の振り返り
・毎週、毎学期のスタッフ(教員)からのフィードバックと学期末の個別面談
・毎週、毎学期の保護者からのコメント
<成果に関連する実践>
・テーマ学習(※)など他の学習の振り返りとフィードバック
・研究発表会での生徒同士の感想
・毎週のスタッフ会議でのスタッフ間の子どもの様子の共有、声かけや接し方についての議論

(※)テーマ学習の内容に関しては『変容につながる16のアプローチ―SDGsを活かした学校教員の取組』を参照

 

■評価手法を適用した実践

<話し合い>

Aさん(中学生)の学びの成果と評価の実践がどのように関わっていたのかについて、話し合いでの発言や役割の担い方の部分を取り上げて具体的に紹介する。

Aさんは中学部に入学した当初は集会などの話し合いの場面では、その場にいることが精一杯でほとんど発言はなく、思ったことがあっても発言できなかった。司会や記録などの役割も担うことはなかった。スタッフ(教員)から、学校ではチャレンジしていってほしいと伝えたり、少しでも意見が言えたことをフィードバックし文章で伝えたり、個別面談で話をしていったりするうちに、少しずつ意見が言えるようになった。また、話し合いの役割も担うことができるようになり、小中学生が集まる全校集会でも司会を務めることができた。その時のことを自分で振り返り、納得のいくような司会はできなかったが、反省点が見つかったのでよかった、というような前向きな振り返りができていた。
その過程で、毎学期の目標や毎週の振り返り、学期末の振り返りを個人作業でじっくり取り組むことと、それに対してスタッフ(教員)からの文章によるフィードバックと個別面談で話を聞いたり声かけをしたりすることを続けている。それによりリフレクションができ、生徒自身が自分の目標に前向きにチャレンジすることができている。

実際の生徒本人の振り返りの変化とそれに関わるスタッフのコメントは以下の通りである。

Aさんの振り返り
・思っていることを言っていなかったりしていて、声に出さないと伝わらないから、そこは全然協力できてないのかなと思いました。
・全然手を挙げて意見をいうことができなかったから、もう少し意見を言えるようにがんばりたい。思ったことを言えるようになれたらいいなと思った。話を聞いているだけで、自分は話し合いに参加してないような気がした。
・役割はそんなにやってなかったけど、ちょっとは参加できたのでよかった。役割は慣れていかないとだめだなと思いました。
・役割で司会をやってまとめるのが難しかった。どんな風に話せばいいのか分からない。

教員(スタッフ)からのコメント
・自分の意見を伝えたり、人と対話したりすることを大切にしているので、思い切って積極的に参加してみてください。自分が思ったことや考えたことは、ためらうことなくどんどん出していってくださいね。
・話合いでは少しずつAちゃんの意見を伝えてくれていたね。また記録の役割もチャレンジしました。友だちと一緒に何かをする時に、相手の意見を大切にする一方で判断を人まかせにするところが気になっています。自分がどう思うのかも、少しずつ伝えていけたらいいなと感じています。
・話し合いの場面では、他の人と意見が違っていても、自分の意見をちゃんと伝えていたのが素敵だと思います。
・話し合いでは、なかなか自分の意見を言うことができない感じもありましたが、グループの他のメンバーがいない時は自分から案内するなど、全体への働きかけも経験できたね。この流れで役割を引き受けることもやっていこう。やったことのないことに、まず一度挑戦してみるということがこどもの森では期待されています。
・集会では、なかなか積極的に役割に手を挙げたりたくさん意見を言ったりすることは難しいけど、共同の活動の中で発言する機会も増えてきたね。持ち回りで司会を経験できました。着実にできることは増えていると思うので、それを確認しつつ、これから役割にもっとチャレンジしていって経験を積んでいこう。
・ファミリーグループの意見をまとめて発表してくれて頼もしく思いました。クラス集会では記録を中心に、役割を引き受けました。全校集会の司会にチャレンジしました。スタッフのサポートも受けながら、意見を確認しながらまとめ、役割をしっかり務めることできましたね。とても貴重な経験だったはずです。話し合いでは、自分の意見を伝えてくれることが増えてきました。

Aさんの振り返りの変化
・人とのコミュニケーションが難しいと感じなくなった。
・役割をやることが多かったのではないかと思った。話し合いでの役割は積極的にできたと思った。
・(全校集会の)司会をやってみて難しくてうまく進められなくて残念やったけど、やってみて自分に足りないことに気づいたからよかった。
・(役割をしたり意見を言ったりすることにについて、入学した時と比べると)前は何かあったら逃げていて、楽な方にしていた。今は自分からいろいろできてきている。前は思っても行動できなかった。

決められた評価軸によって評価して他の人と比べるのではなく、それぞれの自分軸を一緒に作ることも含めてフィードバックをしながら伴走していくようなイメージで関わっている。振り返る機会をたくさん設け、定期的に個人的に話をして、その積み重ねで少しずつ変化のきっかけが掴めるようになっている。

 

<テーマ学習>

大きなテーマを元に、自分の興味関心に沿って個人テーマを設定し、調べてまとめ、発表する学習。Aさんの場合は最初は自分のテーマを設定するのが難しかったが、その自分の取り組み方を振り返りつつ、向き合ってチャレンジしていく内に、自分が納得のいくような学習の進め方や発表ができるようになっていきました。

そして、振り返りの場で「今回は自分の納得のいく発表ができた」とクラスメイトの前で話すことができました。

 

Aさんの振り返り

・5分プレゼンのときに声を大きな声で言えなかったとか、反省点が出てきたので次のWOでは反省点をなおしたい

・発表はあまりかまずに言えたからけっこうよかった。

 

スタッフからのコメント

・調べたことに対して、自分が思うことをしっかりと表現ができました。

・伝える時に聞いている人の目線を合わせたり、会場からの質問を理解して丁寧に答えたりしようと頑張っていたことにも、新しい成長を感じています。Aちゃんは、物事の「ここはどうなの?」と多角的に気づく視点や、自分はこう思うという意見を持っていることが素晴らしいと感じています。

・京都の神社巡りをすると決め、いくつかの神社と行きたいところを調べ、はんちゃんと一日外出の計画を立て出かけました。

・発表では日本の農業の問題点や、オランダの農業について印象的だったことを、自分の意見と合わせて伝えることができました。発表では聞いている人を見ながら自分の言葉で話すことや、落ち着いて伝えていた様子にも、以前からのステップアップを感じました。

・「農」では、調べること(問い)をたくさんリストアップしていましたね。その問いをしっかりと調べようとする姿勢も見られました。その姿勢は尊いものです。最終的に『オランダと日本の農業』のテーマで発表しました。オランダとの比較が興味深い視点でした。それをヒントに日本の農業のこれからについて自分の意見を表現することができていました。また、レポートも完成に向けてがんばっていたね。

 

Aさんの振り返りの変化

・個人的にすごい興味をひいた情報で実行できてよかった。アドリブがすごいよかった。台本が無くてしゃべれたのがすごいと思った。

・農のテーマが自分の疑問からできたから、今までやってきたテーマより一番考えやすくてやっていて楽しかった。

 

 

<プロジェクト>

自分のやりたいことを、自分の計画で進めるプロジェクト学習。Aさんは最初はなかなかやりたいことが見つかりませんでしたが、それを振り返りながら向き合う内に、ギターにチャレンジしてみることで、やりたいことを見つけることができました。

 

Aさんの振り返り

・あまりプロジェクトはできてないかな

・プロジェクトでは自分のしたいことをやれてなかった。自分のしたいことを見つける

 

スタッフのコメント

・登校が始まってからはギターにチャレンジし始めたね。インターネットでコードの押さえ方を調べて、自分の力でドンドン練習して上達していき、曲を通して弾けるまでになりました。他の楽器と合わせて楽しむこともできていたね。自分のギターも手に入れて家でも練習をして指先が固くなるほどでした

・ギターは楽しみながら練習を重ね、コードを見ながらいろんな曲を弾けるほどに上達しました。誕生日会で「ハッピーバースデー」を即興で演奏することにもチャレンジしました

 

Aさんの振り返りの変化

・楽しいことがいっぱいあった。

・1年の時からギターをしたいと思っていたからできてよかった。

・PJではギターをやっていて少しひけるようになったのがよかった

・自分のやりたいこととか、理解できてなかったけど、自分がギター弾くのがけっこう続いているから好きなんだとか、身体を動かすことが好きなんだとか、この1学期で自分の好きなこととかがわかってきたのがよかった。

・今期のプロジェクトは自分のやりたいことができたからよかった。