沖縄タイムス記者 阿部岳さんのお話


中学部ではワールドオリエンテーションのテーマとして「沖縄と政治」について調べています。先日、沖縄タイムスで記者をしている阿部岳さんに話を伺う機会がありました。

今回はその様子を一部お伝えします。

沖縄にいる阿部さんとはオンラインをつないでやりとりをしました。

 

まず、中学部ひとりひとりから自己紹介とワールドオリエンテーションの研究テーマを伝えました。研究テーマは基地問題や沖縄での犯罪、言葉や風習などの文化や歴史など、各人が関心を持つ幅広い分野に及んでいます。

 

阿部さんからは東京出身であるご自身が沖縄タイムスで働くようになった経緯や、現在の取り組みについて簡潔に話されました。1995年の米兵による事件を機に沖縄の人の怒りに触れ、さらに本土の自分たちが基地を沖縄に押し付けていることに気付いたそうです。

新聞記者になるなら沖縄へと考え、沖縄タイムスで記者となり今年で24年になります。現在は辺野古の基地問題などの他にも、沖縄でのヘイトスピーチについても取材を進めているとのことでした。

阿部さんとの話合いは、中学部の人たちがこれまで沖縄について調べてきた中で、疑問に抱いていることや質問に答えていただく形で進められました。

 

最初に、米軍基地の必要性について質問が上がりました。阿部さんからは、まず本当に米軍基地が必要なのかということを政府・本土の人間は考える機会が少ないことを問題点として述べられました。沖縄ではこの問題に日々直面しているからこそ考えざるを得ません。また、阿部さんは日米地位協定での不平等をなくすことも指摘されました。また、米軍を減らす上で、辺野古や普天間にもある海兵隊をなくすことについても述べられました。

基地に由来する環境汚染についての質問に対しては、沖縄のサッカー場の地中から枯葉剤が検出されたことを挙げられました。これについては米軍が記録を公開しないために詳細がわからないそうです。他にも米軍基地で使用されているPFAS(有機フッ素化合物)が地下水に溶けている問題について取り上げられました。発がん性などが指摘されているこの物質は日本では基準がないものの、沖縄での検出値はアメリカでの基準を上回っているとのことでした。思想や政策で語られる基地問題ですが、沖縄の人にとっては命や人権の問題であると述べられました。

 

「沖縄の基地問題について知ることはできても、当事者じゃない立場で理解することは難しい」と話す中学生に対しては、阿部さん自身も、沖縄を理解しているかというとそうではないと言われた上で、理解できないから話せないのではなく、知ろうとする心掛けの必要性に触れられました。

さらに、本土の人間にできることは何かという問いには、基地問題は沖縄の人のために考えるのではなく、本土の責任であるという点を指摘されました。「日本の大多数を占める本土の人たちが沖縄を変えられる。他人のためではなく、自分も加担しているという意識を持つことで考えがすっきりする」と言われた上で、まず、自分が恥ずかしいと思うことに加担するのをやめるという考えを伝えられました。

また、阿部さんが現在取材をしているという、ヘイトスピーチの問題についても、中学生から質問が及びました。那覇市役所前では定期的にヘイトスピーチが行われており、それを止めさせるために先に場所取りをするなど、市民の方々が行動を起こしているそうです。また、ヘイトスピーチを規制する条例の制定が進められているとのことでした。

阿部さんを突き動かしているモチベーションについて尋ねられると、不公平があることや差別を受けている人がいることに平気でいるような、今の状況を恥ずかしいと感じていること、そして、誰かのためというのではなく、自分が恥ずかしくなく生きるために行動していると話されました。

今回は残念ながら研修旅行で沖縄を訪問することはできませんでしたが、阿部さんからは「ぜひ沖縄に来て、自分の目で見てください」と言われました。途中、那覇市内にいる阿部さんの方で、航空機の騒音のためにやりとりが中断される場面もあり、沖縄の抱える現状を垣間見た気がしました。

 

阿部さんはひとつひとつの質問に対して、丁寧に言葉を選びながらご自身の考えを述べられ、真剣に向き合ってくださいました。中学部の人たちも阿部さんの真摯な言葉を受けて感じとる部分も多かったのではないでしょうか。書籍やインターネットなどの情報に留まらず、現場を知る人と交流する貴重な機会となりました。(S.N)