インプロでコミュニケーションを楽しもう!


 

高学年のことば共同ではインプロにチャレンジしました。インプロとは、“improvisation”の略で「即興」のこと。わたしたちの日常のコミュニケーションはほとんどが即興的なもののはずなのに、何故かそれを練習するとなると、突然に決まりきった形式に当てはめて、かしこまったやり取りをする、という様相になってしまうことはよくある気がします。そういった練習が必要なことももちろんあるとは思いますが、ここでは敢えて即興的なコミュニケーション(非言語を含む)に焦点を当て、まずはその偶然性を面白がってみることにしました。

 

最初にインプロって何なのか、担当スタッフからほんのちょびっと説明した後、

「まずは、とにかくコミュニケーション楽しんでみよう。」

と投げかけてスタート。

 

はじめに2人組を作って、片方の人がホールにある何かを指さします。それに対して、もう一方が「手帳!」「コンセント!」などと浮かんだ言葉をパッと外へ出します。それを繰り返すだけ、という実にシンプルな活動ですが、これだけでも何だか楽しそう。

 

続いてルールを変えて、今度は指さしたものとは全く関係のないものを答えます。同じ手帳を指さしても、「パイナップル!」などと答える。ただし、例えばそれが、「新聞!」だった場合、それは同じ紙同士で関連があり過ぎるかもしれません。その時は指さした側の人が「ブーッ!」と言って厳しくジャッジ。また、答えが「パイナップル!」「ハワイ!」「海!」などと関連するものが続いている時も、同様に「ブーッ!」です。「ブ-ッ!」なんて言うと、言われた子がショックなんじゃないかと思われるかもしれませんが、これは間違うこと自体を大したことではないと思えるようになるための活動でもあるので、ここはジャッジする方もあくまでユーモラスに、される方も「アハハッ。」と笑って進めます。

 

「難しかった~!」

と言いつつ、キャッキャと楽しんでいた子どもたち。その様子から、どうもこの子たち(特にヤンチャな男の子たち)は、思い付いたユーモラスなことを言うことにモチベーションを持てている様子。それを見て、この後の展開をちょっと予定と変更してみることにしました。

 

こういう活動的なものをする時には、普段はあまり教科的な学びに乗り気ではないこういう子たちも、積極的に参加していけることが、特に少人数の場合に全体としての活動のエネルギーを高めていくためには重要だと思います。(ちなみに今日の参加者は特別にクラスの半数の10名弱。もう半数の子は学習室でまた別の活動をしていました)。なので、その子たちの興味の中心に、こちらの活動を合わせて行こうというわけです。インプロを扱うのですから、やはりこちらも即興的に対応したいです。

 

さあ、そういうわけで、続いて行ったのは非言語コミュニケーション。みんなで輪になったところに、スタッフが棒状のマグネットを持ってきました。

「今から、この棒から連想することをジェスチャーで表現しよう。頭に浮かんだアイディアはすぐに行動に移そうね。それを見て、周りの人が何をしているのかを当てます。例えば、こんな感じに…。」

と言って、試しにスタッフが実演。

「『うーん、どうしよっかなあ、浮かばないなあ』ってなっちゃったら、そこで『ブ-ッ!』です。OK? わかった? そしたら、まず一回やってみよう。」

とスタート。みんなで「ピンポーン!」と言いながらワイワイと進みました。

ちょうど一周したところで

「じゃあ、今度はこの円を2つに分けよう。一方の方で思いつかなくなって『ブ-ッ!』ってなっちゃった人は、もう一つの円に移ります。そうやって、少しずつメンバーが入れ替わりながら進んでいくよ。だから、さっきよりも自分に回ってくるペースが速くなります。」

と言ってスタート。

 

ここでも、飛び出す個性が面白い。男の子は定番のサムライやライトセイバー、女の子は包丁や魔法のステッキなど…。

ある子に至っては、やっているジェスチャーがどう見ても野球なのに、

「野球!」

と答えても全然「ピンポーン!」となりません。その子はずっと粘ってやっていたのですが、ついに痺れを切らしてネタばらし。

「なんでわからんかなあ。イチローやって~! アメリカやん!」

「えー、わからんしっ!」

と言って大笑いでした。たまたまこの時に入室してきた見学者の方は、これは一体何をしているのだろうと不思議そうに見ていましたが、子どもたちは段々と思いついたことをすぐに言ったりやったりすることに慣れていったようでした。

 

「よーし、そしたら最後はもう一度ことばを使ったコミュニケーションに戻ろう。さっきと違う2人組になってください。片方の人が、『ねえ、どこどこ行かない?』って提案します。そしたら、相手の人はそれを『いいねえ!』って“Yes”で受け取ります。その後、『そしたら、こうしない?』って新しい提案をしてください。それをまたもう一方の人は『いいねえ!』と“Yes”で受け取って…。その繰り返しです。やっていく内に、どこか思いもかけないところにたどり着いたり、ビックリするようなことが起こるかもしれません。そういうお互いのコミュニケーションから生まれてくるものを楽しみましょう。OK? 質問あるかな? じゃあ、やってみよう。よーい、スタート!」

 

いつもはお互いに相手の意見に鋭いツッコミをいれることで笑いを取ることに長けている子も多くいます。(やはり、大阪だからでしょうか…。笑) どちらかと言うと控え目なタイプの子もいます。そんな子たちに、こういうコミュニケーションが馴染むかなあ、と少し心配もありましたが、始まってみたらかなり楽しそうに取り組んでいました。

終わってから、

「どこか面白いところに行ったり、思いもかけないようなことが起こったりした?」

と聞くと、

「沖縄に行った!」

「北海道に行った! それで、ずーっと雪を満喫してたの。」

とかわいらしく女の子たちが答えてくれる一方で、

「俺たちは、時空旅行に行った! それでなっ…!」

と熱っぽく語ってくれたのは男の子たち。

 

思ったことに自分でブレーキをかけずに言ってみたり、やってみたりすること。いつもこればかりでいいとは言えないけれど、それでもこうしたことが出来にくい、今のわたしたち大人がつくってきた社会。そんな中に、こういうことがスッと出来てしまう人が育っていってくれたら。そして、その人たちが周囲とのコラボレーションを楽しんでいける人たちだったら。世界はきっとよい方向に変わっていってくれるのではないでしょうか。そんなことをいつもどこかに思いながら、でも基本的には大人もその場を楽しみ、子どもたちと一緒に愉快な時間を送れたらと思っています。

 

✳︎この授業の活動は、スタッフ自身が演劇に関するワークショップで体験したものを参考にしています。

(D.H)