自立への教育

辻 正矩(箕面こどもの森学園・学園長)


 私たちは、学園の子どもたちが自分がなすべきことを自分で決め、それを着実に実行し、その結果に責任を持てる子に育ってほしいと願っています。このように、子どもの自立性を育てるのがこの学校の最も重要なミッションと考えているのですが、具体的には、次のようなことを大切に考えています。

 まず何よりも、子どもたちには自己肯定感を持ってもらいたいと思っています。自己肯定感を持った子は、情緒が安定しているので、何ごとにも積極的に取り組むことができます。たとえ失敗してもパニックになったりせずに、自分ひとりであるいはスタッフの助けを借りて問題を解決できるようになります。その経験を重ねると、自信(自己信頼感)を持つようになりますが、これは学習を進めていく上で大きな力となります。一方、自己肯定感の乏しい子は何ごとにも自信が無く、新しいことになかなか取り組もうとはしません。そこで、その子の持っている不満や不安感を取り除いてやると、積極的に学習に取り組めるようになります。

 この学校の子どもたちには、「自己決定」と「話し合いによる決定」の経験を多く持たせるようにしています。自分のことは自分で決めて、その結果については責任を負うということは大人でも難しいことですが、このことを身につけると、こどもの自律心がよく育ちます。大人の指示に従うのではなくて、自らの意志でものごとをやり始め、やり通す力がついてきます。

 この学校の決まりや行事の企画などは、子どももスタッフ(=教師)もいっしょに全校集会で決めています。トラブルがあったとき、当事者同士で問題の解決がつかない場合は全校集会で話し合います。そのとき、多数者の意見だけで決めるのではなく、少数者の意見も尊重されます。このような経験を積み重ねることによって、自分自身を大切にしながらも、自分と違う他者と協力して生活することを学んでいきます。

 私たちは、「子どもは自ら学ぶ意欲をもち、自ら学ぶことができる」という教育観を持っています。子どもは自分の興味のあることには、とても集中して学んでいくことができます。ところが、自分の興味がないことには、やる気がでないので、なかなか学習がはかどりません。この学校では、子どもの自ら学ぶ意欲を引き出すためのさまざまな工夫をしています。その一つが、学習計画表です。これによって、子どもたちは、自分の学習を自律的、主体的に進めて行くことができるようになります。そして高学年になると、「勉強は自分のためにやるもの、勉強をしないと自分が損する」と思うようになります。

 私たちはまた、将来必要になると考えられる知識をたくさん蓄えておくことよりも、自分が本当に必要と思った時にはいつでも学び始めることができるように、自ら学ぶ習慣を身につけておくことの方が大切だと考えています。
 プロジェクトの時間は、自分が今一番やりたいことに挑戦する時間です。何をやるか、どういう方法でどのくらいの時間かけてやるかはすべてその人に任されます。したがって、その成果は自分のものですし、失敗すればその責任を自分が負わなければなりません。これこそ自分の「しごと」であり、「自ら学ぶ」ということを学ぶ最もよい方法です。

 本物に触れる経験を多く持つことも大切です。教科書などの教材で学ぶ学習だけでなく、各分野の専門家や活動家に来ていただいてお話をしてもらったり、お仕事の現場を訪ねてお話を聞いたり、実際に体験させてもらったりします。実際に「しごと」をやっていらっしゃる方の話には説得力があり、子どもたちも真剣に聞いています。
 この学校には、自分がプロジェクトなどでやったことをみんなの前で発表する研究発表会があります。それは人の前でうまく説明するための練習というだけでなく、その準備の過程でそのことをより深く理解するようになるからです。

 人間は表現する動物です。自分の気持や考えをうまく人に伝えることができると心が満たされますが、そうでなければ苦しくなります。自分をうまく表現できると、前向きにものごとに取り組めるようになります。といっても表現は言葉や文章でするとは限りません。「かず」や「音楽」や「クッキング」でも自分を表現することができます。プロジェクトは、自分に相応しい自己表現の技術を身につける絶好の機会です。そうやって得た自己表現の技術は、人生を豊かにする有効な道具となってくれるでしょう。

 以上のことを要約すると、

  • 自分を肯定できるようになると、学習面や生活面での発達がスムーズになる。
  • 自己決定と話し合いによる決定の経験を多く持つと、自律心が育つ。
  • 自ら学習を進める習慣を身につけると、主体的に学習する態度が身につく。
  • 本物に触れる経験や人に教える経験を持つと、ものごとを深く理解することができる。
  • 自分のことを適切に表現できるようになると、前向きにものごとに取り組むことができる。

 

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