NPO法人箕面こどもの森学園

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論⽂・エッセイ

箕⾯こどもの森学園の教育が⽬指すもの

2011/11/24

1.開校したころ

2004年4月、箕面市内に北摂地域では初めてのオルタナティブ・スクール「わくわく子ども学校」が誕生しました。この学校は、教師中心の画一的な一斉授業ではなく、子どもの興味関心から学ぶことのできる、子どもの主体性を尊重する学校が日本にもあってほしいと思う市民が集って創ったものです。

 「大阪に新しい学校を創る会」の設立趣意書に、「わたしたちは、これらの先達の教えに習い、子どもたち自らの意思で学ぶ新しいタイプの学校を構想しました。この学校は生徒数80人くらいの小規模で、そこでは生徒とスタッフが生活をともにしながら、エコロジカルで民主的な教育がなされます。そこでの教師の役割は、将来必要になる知識や技術を教え込むことではなくて、子どもたち一人ひとりの自立的な成長のプロセスを支援することにあります。」と書いています。そのようなビジョンの下で、子どもが自律的に学習するシステムが整っているフレネ教育を参考にして、無学年制のクラス編制で、個別学習を中心としたカリキュラムを作りました。

 校舎は、阪急箕面駅から徒歩で13分ほどのところにある静かな住宅地にある木造の一軒家を借りました。開校前にスタッフ(この学校の教師の呼び方)が話し合って、「ことばや暴力で人を傷つけない」、「学校のものや自分の持ち物は大切にあつかう」などの6つのルールを決めただけで、後は問題が起きる度に全校集会で子どもたちと話し合って決めました。週1回開かれる全校集会では、学校行事の企画を考えたり、問題が起こったときにその解決策を考えたりします。そのときはスタッフも子どももまったく対等の立場で話し合いますが、何かを決めるときに多数決では決めません。ある提案について一人でも反対者がいればその案は採用されません。その替わりの案をみんなで考えて、その中からだれもが反対しない案が選ばれます。最善の案ではないかもしれませんが、参加者のだれもが不満を持たないので、その決定事項はよく守られます。

1.開校したころ

こどもの森の子どもたち

2.自律的に学ぶ

私たちは、従来の教科書中心のやり方ではなく、子どもの自主性を尊重し、生活体験を大切にし、一人ひとりの子どものニーズに合った学習を支援する教育方法を模索してきました。まず最初に、自分で学習内容や学習ペースを決められるように学習計画表を作りました。これはフレネ学校で用いられている方法で、1週間分の学習計画をスタッフと相談しながら子どもが立てるというものです。最初の計画表は、授業時間に何をやるかを書き込むだけの単純なものでしたが、後にはテキストの何ページから何ページまでをやるとか、7の段の九九を覚えるとか、もっと詳しく書くようにしました。開校した年は、子どもの学習の内容や進度については子どもの自主性に任せるという方針でやりましたが、その結果といえば、自分の好きなこと、できることはどんどんやるが、きらいなこと、苦手なことはちっともやらない、その日の気分によって進んだり進まなかったりしました。

 2年目になると子どもたちもこの方式に慣れてきて、自分が立てた計画を守ろうとするようになってきました。しかし、このやり方では、小学校6年間で学んでおかなければならない学習項目をどの程度学習したかが分からないので、国語と算数については1年生から6年生までの学習指導要領の中の最低限必要だと思われる項目を選んで、学習項目の一覧表を作り、それを6年間で習得するという目標を立てました。子どもたちはこの表を参照しながら1ヵ月の学習目標を立てます。そして、その目標を達成するために1週間の学習項目と学習のやり方を計画表に記入します。計画表とは別に自分のコメント、スタッフのコメント、保護者のコメントを書くシートがあり、その1週間の振り返りをします。低学年のコメントでは、「おもしろかった」、「むずかしかった」など、単純な記述が多いのですが、4・5年生になると、学習の喜びや反省すべき点などを書くようになり、やがて「勉強は人に言われたからやるのではなく、自分のためにするのだ」という自覚を持つようになります。

2.自律的に学ぶ

個別学習の様子

3.自分のことを表現する

学校での一日は「ハッピータイム」という時間から始まります。ハッピータイムというのは、20分間、子どもたちが昨日家であったこと、夢で見たこと、登下校中に見聞きしたことなどを自由に話す時間です。子どもたちが生活の中で起こったデキゴトを通して、自分の気持や考えをみんなの前で話せるようになってほしいと思って設けた時間です。低学年の子は、学校の近くの公園で出会った生き物のことや家族でお出かけしたことなどを嬉しそうに話してくれます。高学年の子は、友だちと遊んだことやお買い物したことなどをよく話します。自分の話を共感して聞いてくれる人がいるので、子どもたちは進んで話そうとするのです。そして、そのことによってその子の自尊感情が高まります。

 フレネ教育の教育技術に「自由テキスト」というのがあります。これは、子どもたちの体験したことを文章化したものです。詩のように短くてもいいし、絵を付けてもいい。それをみんなの前で読みます。それに対して聞き手から質問や感想が述べられますが、そのやりとりを通して、作者の感情や生活を知ることになります。フレネ学校では、子どもたちが書いたものの中から投票で何点か選び、それをテキストとして綴り方や文法を学びます。この学校では投票はしませんが、自分が気に入った文章を選んでテキストにして、よりよい文章表現の仕方を学びます。例えば、この文章はこう書いた方がもっとよくなるのでは、ここは漢字に直すといい、ここのところはもっと詳しく書いた方がいいとか、みんなで文章を推敲します。スタッフが権威者として文章を直すよりは、子どもたち同士(スタッフも含めて)で直していく方がもっと楽しく学べます。

3.自分のことを表現する

ハッピータイム

4.新しい校舎に移る

開校してから4年目。生徒の数は10人を越えるようになり、低学年と高学年の2クラスに分けて授業をするようになりました。教室に使う部屋が狭いのと、遊べるスペースが少ないので、子ども同士のトラブルが増えてきました。また、公開の行事をするときは公共施設を借りなければならないので、不自由さを感じていました。この学校が発展するには、もっと広いスペースが必要だということで、学校に相応しい不動産物件を探すことになりました。紆余曲折はありましたが、最終的には小野原西の区画整理事業で開発された1つの区画地に新築することになりました。

 新しい校舎が完成したのは2009年3月。それを機に学校名も「箕面こどもの森学園」と改めました。新校舎は人にも環境にも優しい建物にしたいということで、木造2階建で、床や建具、塗装などには自然素材を多く使いましたが、「学校に入ると木の香がしてとても気持ちいい」と来校された方からは好評でした。最初は有り余るスペースに戸惑いましたが、すぐにそれが当たり前になってしまいました。子どもたちは新しい環境に慣れるのがはやく、さっそく校庭に廃材を集めて基地を作り始めました。

 できたばかりの校庭は、桜やきんかんなど数本の木しか植わっていなくて、森というにはほど遠い状態でした。ある人から「こどもの森というけれど、ここには緑がほとんどなくて、まるで砂漠のようね。」と言われてしまいました。確かにその通りなのですが、「こどもの森」は樹木だけでなく、子どもも大人もそこに集う人たちが森を構成する一員だと考えています。いろんな人たちがやってきて交歓し、生を謳歌する『生のための学校』が「こどもの森」なのです。森を利用する人間の知恵と愛によって豊かな里山の森ができたように、「こどもの森」もこれに関わる人たちの知恵と愛によって豊かな森に育っていくようにと願っています。

4.新しい校舎に移る

小野原の新校舎

5.子どもの自尊感情を高める

新しい校舎に移ってから2年余りが経ちました。この間にこの学校独特の文化が根づきつつあります。そして、異年齢の子ども同士がお互いを尊重しながら学ぶと、どういう効果があるのかがはっきりしてきました。低学年の子と高学年の子がいっしょに遊んだり、学習することがよくありますが、低学年の子が困っていると高学年の子がさりげなく教えてあげたり、サポートしてくれたりします。全校集会のときは、低学年の子も高学年の子にまけずに、対等に発言することがあります。それができるのは、年齢や性別には関係なく対等な人間として各自の存在が認められているからだと思います。

 この学校に途中から入ってきた子どもたちの中には、前の学校で先生あるいは友だちとの関係でしんどい思いをして、そのため自尊感情(自己肯定感)が低くなっている子がいます。そんな子でも、ここはあるがままの自分を出してもよいところだと感じると、他の子たちとうまくやっていけるようになります。転校してきたばかりの女の子が「この学校の子はみんな変わってる。でも、ここでは変わっていてもいいんだ。」とお家の人に言ったそうです。彼女の言葉は、この学校の子どもたちのことを適確に言い表わしていると思います。

 この学校のスタッフは、カール・ロジャーズ(アメリカの人間性心理学派の心理学者)やトマス・ゴードンの次のような考えを採り入れて、子どもたちと接しています。これらを完全に実行することは私たちもまだできていないのですが、子どもたちの自尊感情を高めるために大切なことだと思っています。

  1. 1.子どもを人格をもった一人の人間として尊重し、あるがままに受容する。(尊重、受容、信頼)
  2. 2.子どもの話に耳を傾ける。否定するわけでも肯定するわけでもなく、ともかく話を聞くことに徹する(能動的な聴き方)
  3. 3.子どもの困った言動に対しては、相手を批難するのではなく、「あなたのしたことで私はこう感じた」というように自分の気持ちを率直に伝えるようにする(私メッセージ)
  4. 4.教師が真実の人間、つまり、ときには間違いも起こす人間として、見せかけや仮面をはずして子どもと関わる(真正性)

6.卒業した子どもたち

卒業生の進路は、公立中学や私立中学に進む、フリースクールに行くなどさまざまです。卒業生が夏祭りなどの行事のときにやってきて、近況を報告してくれます。公立学校や私立学校だと、学習のやり方が自分で計画を立ててやる学習から、教師が決めた通りに進む一斉学習に変わるので、慣れるまで学習がやりにくいだろうと思い、聞いてみると、こんな答えが返ってきました。

「学習のやり方はいややけど、もともとそんなやり方だと思ってたし、慣れるからいい。それよりももっと困ることがある。ここやったら、その人が選んだこととか決めたことは、その人の考えなんだからそれでいいって思ってくれていたし、みんなと違うことをやっててもよかった。それが、中学ではみんなと一緒じゃないと変な人とか、付き合い悪いって思われるやん。例えばトイレ行きたくなくても一緒に行かなあかんし、弁当を外で食べたくなくて断ったら、変人扱いされる。自分がやりたくないときでも、みんなに合わせなあかんのが一番困ってる。」

 他の卒業生も、同じようなことを言っていました。お弁当を食べる場所、トイレの時間、休日のおでかけなど、声をかけられたのに断ったり、みんなと違うことをすると変わり者扱いされることが多いのだそうです。よくよく話を聞いていくと、卒業した子たちは、周りの子に適当に合わせてながらも、大切に思っていることには断固自分の意志を貫いているようです。クラスの大半が携帯電話を持っていても、自分にはまだ必要ないと携帯電話を持たないことを選択している子、小学生の頃から好きだった手芸やお菓子作りができる部活に入って、一年生ながら部長をやっている子、前の学校で嫌いになった音楽がこの学校で好きになり、中学校の吹奏楽部や地域のコーラス・グループで活躍している子など、いろいろです。この学校を卒業した子どもたちは、周りに合わせる柔軟性と自分の意志を貫くしたたかさを持ちながら、置かれた状況の下で今を一生懸命に生きています。

7.わたしたちが目指すもの

私たちは、日本の社会がもっと自然環境へ配慮し、安全で健康な生活を享受できる、そしてだれもが自己実現のできる民主的な社会になってほしいと願っていますが、そのような社会の実現のためにも教育の果たす役割は非常に大きいと思っています。情報化、グローバル化が進行する21世紀の社会においては、社会に役立つ人材の育成を目的とする教育から、個人の自立的な生き方を支援する教育への転換は避けては通れないことだと思います。

 欧米諸国だけでなく、タイや韓国、台湾などのアジアの国々でも、教科書中心で一斉授業という従来型の教育とは別のオルタナティブ教育とよばれる、一人ひとりの子どもの個性を尊重し自立的な成長を支援する教育が公認されています。これらの国では、オルタナティブ教育のよいところを公教育の中にも取り入れており、一定の成果を上げています。

 日本でも、そのような子どもの個性を尊重する学校が非公認の形で増えつつありますが、まだその数は非常に少ないのが現状です。そのような学校が公認され各地にできるようになると、子ども(親も)が自分に合った教育を自由に選択できます。そうなれば、今の学校教育に違和感をもつ子や不登校の子どもたちにとって福音となるでしょう。また、学歴社会に組み込まれて身動きできなくなっている日本の公教育も変わってくることでしょう。私たちの学校は規模は小さいですが、混迷する現在の日本の教育を変革していくという大きな使命を担っていると思っています。

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