人の気持ちを受け止める ~子どもたちの話し合い 落とし穴について~


 ある日の放課後、男の子二人が落とし穴を作りました。
 見学に来ていた大学生のお兄さんが、「発想力と行動力にとても感心しました!」と驚くほどで、落とし穴としてはいい出来栄えのものができあがりました。
 落とし穴といえば、誰かを落としたいもの。「こっち来て~」とある女の子に声をかけ、その女の子が落とし穴にはまってしまいました。
 落とし穴づくりが楽しくなったのでしょう。翌日の昼休み、メンバーも4人に増えて、落とし穴づくりが始まりました。
 ところが・・・、半年ほど前にその男の子たちが落とし沼(ドロがたまっている落とし穴)を作り、その落とし沼にその男の子たちに「来て、来て~」と言われ、はめられてしまい、新しい靴もどろだらけになった女の子がいました。
 その女の子が、「人、はめるなんておかしいやん。落とし穴、作らんといて!」と言い出しました。前日に落とし穴にはめられた女の子や、自分ははまっていないけど作って欲しくないと思う子も「作らんといて!やめて!」と言い出しました。
 「べつにはめるつもりで作ってるわけじゃないから、こっちには落とし穴を作る自由がある。そっちに作らんといてって言われる筋合いない!」
 「こっちは、作られるだけで嫌やねん。作らんといて!」
 「だから、人をはめへんって言ってるやん。それやのに、作らんといてって言われたくない!」
 作らないでほしいと行っているのに聴いてもらえないと感じた子どもたちは、教室に戻って悲しくなって泣き始め、
落とし穴を作りたいのに作らないで!と一方的に言われていると感じた子どもたちは、プリプリ怒りながら、落とし穴を掘り続けました。
 午後の学習は、ことば共同と全校集会でした。ことば共同は、自由作文や音読を伝え合い聴き合う時間で、お互いを理解し認め合い関係づくりを深めるためにやっている学習です。子どもたちの心がイガイガしてとがっているときにできることではないし、カタチだけやっても意味がないと判断しました。
 そこで、そのことを子どもたちに説明し、全校集会とことば共同を入れ替え、先にこの落とし穴のことを話し合うことを提案しました。どの子も居心地の悪さを感じていたのでしょう。全員がその提案でいいと了解してくれたので、先に全校集会をすることになりました。
 半年前に落とし沼にはまった女の子が、静かに言いました。
 「前に落とし沼にはめられたとき、新しい靴がドロドロになって、すっごく悲しかったのに、作った人たちは笑ってバイバ~イって、先に帰っていった。すごく悲しかったから、そのことをそのとき全校集会で言ったら、もう落とし穴は作らへんって決まったのに、また作って、昨日Aちゃんをはめて笑ってた。人を困らせて喜ぶようなことをしてほしくない。」
 その女の子の訴えを聞いて、みんな半年前のことを思い出しました。記録担当の子が全校集会の記録ノートを調べると10月に落とし穴をつくって人をはめないことが話し合われていることも確認できました。
 
「落とし穴作ってるときは忘れてたけど、前に落とし穴のことを話し合ったのを、今、言われて思い出した。楽しかったから作っちゃったけど、作ったらあかんかったな~って・・・、反省してる・・・」
 プリプリしながら作っていた男の子が言い出しました。
「落とし穴を埋めて、もとに戻してほしい。」作ってほしくないと言っていた子たちが言うと、
「もう、だいたいは埋めてきた」と掘っていた子達が言いました。
 司会の子が、「もう落とし穴は作らないでいいですか?」とみんなに聞き、全員「いい。」ということで、話し合いが治まろうとしていたとき、半年前に落とし沼にはまった子が言い出しました。
 「なんか、解決したように見えるけど、すっきりしない。心の中がまだモヤモヤしている。」
 「なんでモヤモヤしてるん?」
 「どう言ったらいいかわからへんけど、うちは、落とし沼にはめられてすごく悲しかったし、次こういうことがあったら、心の火山が爆発するっていうぐらい嫌やった。人をはめて、はまった人を自分たちは喜ぶっていうのがすごい嫌や。うちのことはいいけど、昨日はめたられたAちゃんにはあやまってほしい。」
 「・・・・・。ごめん。」
 沈黙の後、落とし穴を作ってはめた子達があやまりました。
 「Aちゃんは、何かいいたいことある?」
 「うちは、あやまってくれたからもういい。」
 
 落とし穴を作っていた男の子が聞きました。
 「学校じゃなかったら、落とし穴作っていいかな~。千里北公園とか。」
 「千里北公園でも、人がよく通るところはあかんと思う。」
 「じゃあ、人が通らんところはいいかな~」
 「それは・・・、いいんじゃない?」
 「よし!秘密基地のところやったら作れるな。作るんやったら秘密基地にしよっと。」
 放課後、落とし穴だったところは、きれいに埋められました。
 子どもたちは、大人から「作るのはよくない」とか、「落とし穴スペースを作って作ってもいい」とかの判断を与えられるのではなく、自分たちで気持ちや考えを出し合いながら、はめた方は楽しいけど、はめられた方はとても悲しい思いをするから、落とし穴を作らないことを話し合って決めていきました。
 そして、話し合う前は、とてもイガイガした空気だったのに、話し合った後は、またなごやかな空気に戻っていきました。
 
 この学校の子どもたちは、こんな話し合いを繰り返しながら、自分とは違う意見を聴くこと、そしてそれを受け入れながら、みんなが納得できる解決を見出すことを日々学んでいます。こういう体験が、子どもたちの心を大きく育てています。