フレネ教育とは

フレネ教育の創始者セレスタン・フレネ(1896−1966)のことは、日本ではシュタイナーやモンテッソリほどは知られていません。彼らは世間によく知られた人で、信奉者も多いカリスマ的な人物でしたが、これに対してフレネは一介の田舎教師に過ぎません。フレネは師範学校在学中に召集を受け、第一次世界大戦中にドイツ軍の毒ガスで胸を冒されてしまいました。そのため授業中に大きな声を出すことができないという教師としての致命的なハンディキャップを負わされたのですが、そのことが独自の新しい教育思想と方法を編み出す契機となったのです。

南フランスのバール・シュル・ルーという小さな町の教員として採用されたフレネは、着任早々困難に直面します。6歳から8歳までの男の子ばかりの教室では、生徒たちは5分間も話を聞けば落着かなくなり、おしゃべりを始め、隣の子をからかい、動きまわる・・・。彼は大声を出して疲れ、授業を途中で投げ出し、自室に戻って休息し、ハァハァ息を吐く。そのような生活の中で、生徒たちを学校の外に連れ出して、散歩しながら、人々の生活の様子や自然を観察させました。教室に戻って子どもたちにいま見てきたものについて自由に表現させ、それをまとめて黒板に書きました。すると教科書の文章には何の興味も持てず、読み書きのできないはずの子どもたちがスラスラ読めるし、ノートに書き写すことができました。これが「自由作文」※1の始まりです。

ある日、フレネは教室に印刷機械を持ち込みました。黒板やノートに書かれた後は消されてしまう子どもたちの生活や思考を紙の上に固定化し、永続的なものにしたのです。子どもたちは自ら活字を拾い、版組をして印刷するという作業に夢中になりました。それは自分の考えをみんなに読んでもらえるという自己表現の手段を手にしたからです。このことはクラスの中だけに留まらず、「学校間通信」として、遠く離れた学校の生徒たちとの交流の手段ともなりました。

こうしてフレネは、子どもたちが生活の中のできごとを表現し、自ら作り上げる自前の教科書を手に入れましたが、そのことは学習要領にもとづいた教科書を批判することにもなります。「従来の教科書は大人の一方的思考にもとづいて作られ、子どもは自分の生活、思考とは全く無関係な世界に導かれ、他者の思考を思考することが求められる。それは『単調さのゆえに必然的に子どもを疲れさせる』し、子どもは『暗記すること』を強要されるから一層苦難の材料となる。また、教科書は大人の思考を押しつけることにより、子ども自身の自己表現、自分の思考を押し殺してしまう」と。そして、フレネは「教科書も、授業もいらない!」と宣言するようになるのです。

フレネ教育では、このように一斉授業を廃止し、子どもの個人学習が奨励されますが、決して「個人」や「個性」の発達だけを重視しているわけではありません。彼は「子どもは自分が役立ち、自分に役立ってくれる理性的共同体の内部で、自己の人格を最大限に発展させる」と述べているように、自分たちでお互いの労働を組織し、協働するなかで人間的交流を深め、発達していくものと考えました。そして、子どもたちの自治組織である「学校協同組合」※2や、「仕事の教育」による生活の組織化を図ったのです。

授業風景授業風景

フレネ教育も時代とともに変わっていきますし、それぞれの学校の置かれた状況によっても変わります。私たちは私たちの環境と状況の中で、フレネが示唆したものを指針として、私たち独自の教育と文化を創っていきたいと思っています。※3

※1 自由作文(text lible)は、子どもが今感じていることや、言いたいことを文章で表わすことによって心が解放されるという考えに基づいて、日常の生活の中での出来事や印象を綴った短い作文のこと。クラスの中で発表し、みんなからの批評を受けたあと、投票によって選ばれた作品が印刷され、共通の教材(テキスト)として使用される。

※2 学校協同組合(cooperatif)は、生徒による自治組織のことで、生徒から集めた会費を鶏卵のケーキや学校通信などの売上代金を基金として運営される。このお金の管理運営は生徒に任され、備品の購入や各種の行事の費用に当てられる。これらの活動は生徒集会において計画され決定される。

※3 現在、フランスではフレネ教育を取り入れている教師の数は1割くらいいるといわれていますが、スペイン、ドイツ、ブラジルなど諸外国へも広がっています。日本では1983年に宮ヶ谷徳三氏や若狭蔵之助氏らが中心になって「フレネ教育研究会」が発足し、フレネ教育の研究と実践を行なっています。
※詳しくは当研究会のホームページ http://www011.upp.so-net.ne.jp/freinet/ をご覧ください。

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【参考文献】

  • C.フレネ、「フランスの現代学校」 明治図書
  • C.フレネ、「手仕事を学校へ」 黎明書房
  • 若狭蔵之助、「生活に向かって学校を開く」 青木書店
  • 坂元忠芳、若狭蔵之助、西口敏治、 「フレネ教育 表現する教室」 青木書店
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